國體護持總論
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著書紹介

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交換經濟と通貨制度

このやうに、通貨發行權の爭奪を巡る攻防の歴史は熾烈なものであつて、これは決して過去の問題ではない。現在もなほ續いてゐる問題である。そして、將來に向けてこの問題に真摯に取り組むためには、通貨發行權は一體どのやうな經緯で登場してきたのかについて、通貨の歴史をさらに鳥瞰しておく必要がある。


そもそも、財の直接交換としての物々交換經濟から貨幣を媒介とする間接交換の貨幣經濟へと進展したことに關して、これまでイギリスでの通貨論爭や貨幣數量説、通貨供給量など通貨にするいくつかの考察がなされ、ほとんどの經濟學者によつて、通貨が存在することを當然の前提とする理論が構築されてきたものの、これらはいづれも通貨發行權の歸屬とその根據、通貨發行總量の決定要因などに關する問題を論じたものではなかつた。


そこで考察するに、物々交換經濟とは、二者間で相互に所有する財(物質的な財(goods)のうち、債權、證券などの物質的な財への權利を除いた實物としての經濟財であり、負の財(bads)を含まないもの)を等價で直接交換する取引經濟のことである。そして、ここで言ふ財とは、物質的、精神的欲望を滿たす事物のことを言ふ。

また、貨幣經濟(商品經濟)とは、貨幣を媒介として市場などで財(商品など)と貨幣を等價で交換する取引經濟のことであり、そこで交換取得した貨幣により、さらに他の財(商品など)を取得する形態であることから、直接交換の物々交換と比べて、財(商品など)の間接交換の形態と認識されてゐる。


ところが、物々交換は、歴史的に廣く實在した形態といふより、貨幣經濟による商品交換の特徴を理解するための理論的モデルであるとし、直接交換の物々交換と貨幣を媒介とする間接交換である商品交換とは根本的に異なるとする見解がある。はたしてさうなのか。


このことを考へるについては、次の事實に着目する必要がある。それは、商品自體が貨幣として用ゐられた「商品貨幣」(物品貨幣、貨物貨幣、實物貨幣、commodity money)が流通した時代が物々交換經濟と貨幣經濟との間に歴史的に存在したといふ事實である。これは、貨幣經濟が未發達な時代にみられたもので、それ自身が商品であり、その素材價値と同時に、貨幣としての價値を持つてゐるものが用ゐられた。使用價値と交換價値の双方を備へてゐたのである。これには、社會の歴史的、社會的事情によつてその商品貨幣とされた商品も様々なものがある。石塊、貝殻、布、皮革、家畜、穀物などであり、最近では、冷戰構造崩壞直後のモスクワで、ルーブルよりもアメリカ製の紙卷きタバコ「マールボロ」(Marlboro)が通貨の代用(商品貨幣)とされたことがあつた。


そして、この商品貨幣が金(gold)や銀の貴金屬に變はり、重商主義(mercantilism)がこれを支へた。金銀の保有を增やすことが國家の利益(富)であり、それが貿易の目標であるとするのが重商主義である。これに對して、アダム・スミスは、「富」とは、金銀の蓄へではなく、人々が消費する食料や生活必需品が多く生産されることであるとして重商主義政策を批判した。しかし、この重商主義競爭によつて各國に蓄へられた金銀が初めての世界通貨となつたのである。そして、ここから、銀本位制、金本位制が生まれ、金銀を素材とする金貨、銀貨の本位通貨が流通することになつた。十九世紀以降では金(gold)が世界的に本位財としての地位を獲得し、この金屬通貨(金貨)が金本位制による兌換紙幣に代置された。商品通貨と異なるのは、兌換紙幣には、それ自體に使用價値がないことである。

その後は、兌換紙幣のうち、國際間決濟に廣く用ゐられる基軸通貨(國際通貨)として、ポンド(pound)がその地位に就いたが、二十世紀になるとその地位をドル(dollar)に奪はれた。

ところが、ドルを唯一の金兌換通貨としたブレトン・ウッズ體制が崩壞し、管理通貨制度へと移行し、外國為替についても固定相場制から變動相場制へと變遷した。それでもドルが基軸通貨であり續けるのは、アメリカの強大な軍事力とFRBの財力、そして、その結果、ドル以上に實質的な國際通貨である「原油」といふ商品通貨の決濟通貨がドルであることによるものである。


しかし、金本位制を捨てたことは、金(gold)がこれまでと同じやうに商品通貨の地位に轉落したことだけではなく、「本位制」そのものを捨てたことに重大な意味があることに注視しなければならない。つまり、管理通貨制度といふのは、「無本位制」のことなのである。ところが、世界は、金兌換が不能となつても、これまで通りの習性により、無本位制通貨の價値を信じる「パブロフの犬」となつて、ドルを見ればよだれを流し續けてゐる。


このやうに、物々交換から商品貨幣へ、そして金屬通貨から兌換紙幣へ、さらに、本位制から無本位制(管理通貨制度)へ、固定相場制から變動相場制へと目まぐるしく通貨制度は變遷したものの、商品價値を實體的(實物的)に表象したモノが貨幣經濟における貨幣(通貨)として連續的に認識されてきたものであつて、そこには何らの斷絶もない。從つて、直接交換と間接交換とは根本的に異質であるとする見解には與し得えないことになる。

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