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日本國との平和條約(サンフランシスコ講和條約、桑港條約)

(昭和二十六年九月八日署名、同二十七年四月二十八日公布、同日發效)

連合國及び日本國は、兩者の關係が、今後、共通の福祉を增進し且つ國際の平和及び安全を維持するために主權を有する對等のものとして友好的な連携の下に協力する國家の間の關係でなければならないことを決意し、よつて、兩者の間の戰爭状態の存在の結果として今なお未決である問題を解決する平和條約を締結することを希望するので、日本國としては、國際連合への加盟を申請し且つあらゆる場合に國際連合憲章の原則を遵守し、世界人權宣言の目的を實現するために努力し、國際連合憲章第五十五條及び第五十六條に定められ且つ既に降伏後の日本國の法制によつて作られはじめた安定及び福祉の條件を日本國内に創造するために努力し、竝びに公私の貿易及び通商において國際的に承認された公正な慣行に從う意思を宣言するので、

連合國は、前項に揚げた日本國の意思を歡迎するので、

よつて、連合國及び日本國は、この平和條約を締結することに決定し、これに應じて下名の全權委員を任命した。これらの全權委員は、その全權委任状を示し、それが良好妥當であると認められた後、次の規定を協定した。

第一章  平和

第一條

(a) 日本國と各連合國との間の戰爭状態は、第二十三條の定めるところによりこの條約が日本國と當該連合國との間に效力を生ずる日に終了する。

(b) 連合國は、日本國及びその領水に對する日本國民の完全な主權を承認する。

第二章  領域

第二條

(a) 日本國は、朝鮮の獨立を承認して、濟州島、巨文島及び欝陵島を含む朝鮮に對するすべての權利、權原及び請求權を放棄する。

(b) 日本國は、臺灣及び澎湖諸島に對するすべての權利、權原及び請求權を放棄する。

(c) 日本國は、千島列島竝びに日本國が千九百五年九月五日のポーツマス條約の結果として主權を獲得した樺太の一部及びこれに近接する諸島に對するすべての權利、權原及び請求權を放棄する。

(d) 日本國は、國際連盟の委任統治制度に關連するすべての權利、權原及び請求權を放棄し、且つ、以前に日本國の委任統治の下にあつた太平洋の諸島に信託統治制度を及ぼす千九百四十七年四月二日の國際連合安全保障理事會の行動を受諾する。

(e) 日本國は、日本國民の活動に由來するか又は他に由來するかを問わず、南極地域のいずれの部分に對する權利若しくは權原又はいずれの部分に關する利益についても、すべての請求權を放棄する。

(f) 日本國は、新南群島及び西沙群島に對するすべての權利、權原及び請求權を放棄する。

第三條
 日本國は、北緯二十九度以南の南西諸島(琉球諸島及び大東諸島を含む。)、孀婦岩の南の南方諸島(小笠原群島、西之島及び火山列島を含む。)竝びに沖の鳥島及び南鳥島を合衆國を唯一の施政權者とする信託統治制度の下におくこととする國際連合に對する合衆國のいかなる提案にも同意する。このような提案が行われ且つ可決されるまで、合衆國は、領水を含むこれらの諸島の領域及び住民に對して、行政、立法及び司法上の權力の全部及び一部を行使する權利を有するものとする。

第四條

(a) この條の(b)の規定を留保して、日本國及びその國民の財産で第二條に揚げる地域にあるもの竝びに日本國及びその國民の請求權(債權を含む。)で現にこれらの地域の施政を行っている當局及びそこの住民(法人を含む。)に對するものの處理竝びに日本國におけるこれらの當局及び住民の財産竝びに日本國及びその國民に對するこれらの當局及び住民の請求權(債權を含む。)の處理は、日本國とこれらの當局との間の特別取極の主題とする。第二條に揚げる地域にある連合國又はその國民の財産は、まだ返還されていない限り、施政を行つている當局が現状で返還しなければならない。(國民という語は、この條約で用いるときはいつでも、法人を含む。)

(b) 日本國は、第二條及び第三條に揚げる地域のいずれかにある合衆國軍政府により、又はその指令に從って行われた日本國及びその國民の財産の處理の效力を承認する。

(c) 日本國とこの條約に從って日本國の支配から除かれる領域とを結ぶ日本所有の海底電線は二等分され、日本國は、日本の終點施設及びこれに連なる電線の半分を保有し、分離される領域は、殘りの電線及びその終點施設を保有する。

第三章  安全

第五條

(a) 日本國は、國際連合憲章第二條に揚げる義務、特に次の義務を受諾する。

(ⅰ) その國際紛爭を、平和的手段によつて國際の平和及び安全竝びに正義を危うくしないように解決すること。

(ⅱ) その國際關係において、武力による威嚇又は武力の行使は、いかなる國の領土保全又は政治的獨立に對するものも、また、國際連合の目的と兩立しない他のいかなる方法によるものも愼むこと。

(ⅲ) 國際連合が憲章に從つてとるいかなる行動についても國際連合にあらゆる援助を與え、且つ、國際連合が防止行動又は強制行動をとるいかなる國に對しても援助の供與を愼むこと。

(b) 連合國は、日本國との關係において國際連合憲章第二條の原則を指針とすべきことを確認する。

(c) 連合國としては、日本國が主權國として國際連合憲章第五十一條に掲げる個別的又は集團的自衞の固有の權利を有すること及び日本國が集團的安全保障取極を自發的に締結することができることを承認する。

第六條

(a) 連合國のすべての占領軍は、この條約の效力發生の後なるべくすみやかに、且つ、いかなる場合にもその後九十日以内に、日本國から撤退しなければならない。但し、この規定は、一又は二以上の連合國を一方とし、日本國を他方として雙方の間に締結された若しくは締結される二國間若しくは多數國間の協定に基く、又はその結果としての外國軍隊の日本國の領域における駐屯又は駐留を妨げるものではない。

(b) 日本國軍隊の各自の家庭への復歸に關する千九百四十五年七月二十六日のポツダム宣言の第九項の規定は、まだその實施が完了されていない限り、實行されるものとする。

(c) まだ代價が支拂われていないすべての日本財産で、占領軍の使用に供され、且つ、この條約の效力發生の時に占領軍が占有しているものは、相互の合意によつて別段の取極が行われていない限り、前記の九十日以内に日本國政府に返還しなければならない。

第四章  政治及び經濟條項

第七條

(a) 各連合國は、自國と日本國との間に條約が效力を生じた後一年以内に、日本國との戰前のいずれの二國間の條約又は協約を引き續いて有效とし又は復活させることを希望するかを日本國に通告するものとする。こうして通告された條約又は協約は、この條約に適合することを確保するための必要な修正を受けるだけで、引き續いて有效とされ、又は復活される。こうして通告された條約及び協約は、通告の日の後三箇月で、引き續いて有效なものとみなされ、又は復活され、且つ、國際連合事務局に登錄されなければならない。日本國にこうして通告されないすべての條約及び協約は、廢棄されたものとみなす。

(b)この條約の(a)に基いて行う通告においては、條約又は協約の實施又は復活に關し、國際關係について通告國が責任をもつ地域を除外することができる。この除外は、除外の適用を終止することが日本國に通告される日の三箇月後まで行われるものとする。

第八條

(a) 日本國は、連合國が千九百三十九年九月一日に開始された戰爭状態を終了するために現に締結し又は今後締結するすべての條約及び連合國が平和の回復のため又はこれに關連して行う他の取極の完全な效力を承認する。日本國は、また、從前の國際連盟及び常設國際司法裁判所を終止するために行われた取極を受諾する。

(b) 日本國は、千九百十九年九月十日のサン・ジェルマン=アン=レイの諸條約及び千九百三十六年七月二十日のモントルーの海峡條約の署名國であることに由來し、竝びに千九百二十三年七月二十四日にローザンヌで署名されたトルコとの平和條約の第十六條に由來するすべての權利及び利益を放棄する。

(c) 日本國は、千九百三十年一月二十日のドイツと債權國との間の協定及び千九百三十年五月十七日の信託協定を含むその附屬書竝びに千九百三十年一月二十日の國際決濟銀行に關する條約及び國際決濟銀行の定款に基いて得たすべての權利、權原及び利益を放棄し、且つ、それから生ずるすべての義務を免れる。日本國は、この條約の最初の效力發生の後六箇月以内に、この項に揚げる權利、權原及び利益の放棄をパリの外務省に通告するものとする。

第九條
 日本國は、公海における漁獵の規制又は制限竝びに漁業の保存及び發展を規定する二國間及び多數國間の協定を締結するために、希望する連合國とすみやかに交渉を開始するものとする。

第十條
 日本國は、千九百一年九月七日に北京で署名された最終議定書竝びにこれを補足するすべての附屬書、書簡及び文書の規定から生じるすべての利得及び特權を含む中國におけるすべての特殊の權利及び利益を放棄し、且つ、前記の議定書、附屬書、書簡及び文書を日本國に關して廢棄することに同意する。

第十一條
 日本國は、極東國際軍事裁判所竝びに日本國内及び國外の他の連合國戰爭犯罪法廷の裁判を受諾し、且つ、日本國で拘禁されている日本國民にこれらの法廷が課した刑を執行するものとする。これらの拘禁されている者を赦免し、減刑し、及び假出獄させる權限は、各事件について刑を課した一又は二以上の政府の決定及び日本國の勸告に基く場合の外、行使することができない。極東國際軍事裁判所が刑を宣告した者については、この權限は、裁判所に代表者を出した政府の過半數の決定及び日本國の勸告に基く場合の外、行使することができない。

第十二條

(a) 日本國は、各連合國と、貿易、海運その他の通商關係を安定した且つ友好的な基礎の上におくために、條約又は協定を締結するための交渉をすみやかに開始する用意があることを宣言する。

(b) 該當する條約又は協定が締結されるまで、日本國は、この條約の最初の效力發生の後四年間、

(1) 各連合國竝びにその國民、産品及び船舶に次の待遇を與える。
  (ⅰ) 貨物の輸出入に對する、又はこれに關連する關税、課金、制限その他の規制に關する最惠國待遇  
(ⅱ) 海運、航海及び輸入貨物に關する内國民待遇竝びに自然人、法人及びその利益に關する内國民待遇。この待遇は、税金の賦課及び徴收、裁判を受けること、契約の締結及び履行、財産權(有體財産及び無體財産に關するもの)、日本國の法律に基いて組織された法人への參加竝びに一般にあらゆる種類の事業活動及び職業活動の遂行に關するすべての事項を含むものとする。

(2) 日本國の國營商企業の國外における賣買が商業的考慮にのみ基くことを確保する。

(c) もっとも、いずれの事項に關しても、日本國は、連合國が當該事項についてそれぞれ内國民待遇又は最惠國待遇を日本國に與える限度においてのみ、當該連合國に内國民待遇又は最惠國待遇を與える義務を負うものとする。前段に定める相互主義は、連合國の非本土地域の産品、船舶、法人及びそこに住所を有する人の場合竝びに連邦政府をもつ連合國の邦又は州の法人及びそこに住所を有する人の場合には、その地域、邦又は州において日本國に與えられる待遇に照らして決定される。

(d) この條の適用上、差別的措置であって、それを適用する當事國の通商條約に通常規定されている例外に基くもの、その當事國の對外的財政状態若しくは國際收支を保護する必要に基くもの(海運及び航海に關するものを除く。)又は重大な安全上の利益を維持する必要に基くものは、事態に相應しており、且つ、ほしいままな又は不合理な方法で適用されない限り、それぞれ内國民待遇又は最惠國待遇の許與を害するものと認めてはならない。

(e) この條に基く日本國の義務は、この條約の第十四條に基く連合國の權利の行使によつて影響されるものではない。また、この條の規定は、この條約の第十五條によつて日本國が引き受ける約束を制限するものと了解してはならない。

第十三條

(a) 日本國は、國際民間航空運送に關する二國間又は多數國間の協定を締結するため、一又は二以上の連合國の要請があつたときはすみやかに、當該連合國と交渉を開始するものとする。

(b) 一又は二以上の前記の協定が締結されるまで、日本國は、この條約の最初の效力發生の時から四年間、この效力發生の日にいずれかの連合國が行使しているところよりも不利でない航空交通の權利及び特權に關する待遇を當該連合國に與え、且つ、航空業務の運營及び發達に關する完全な機會均等を與えるものとする。

(c) 日本國は、國際民間航空條約九十三條に從つて同條約の當事國となるまで、航空機の國際航空に適用すべきこの條約の規定を實施し、且つ、同條約の條項に從つて同條約の附屬書として採擇された標準、方式及び手續を實施するものとする。

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