自立再生政策提言

トップページ > 自立再生論02目次 > H29.06.15 第七十七回 略奪資本主義

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連載:千座の置き戸(ちくらのおきど)【続・祭祀の道】編

第七十七回 略奪資本主義

うばひとり ひとりじめする くらしでは こころのみつる ひびはえられじ
(奪ひ取り独り占めする暮らしでは心の充つる日々は得られじ)

平成29年5月27日、イタリアのシチリア島でのG7サミットが終はつて、安倍首相の会見があつた。

いろいろな課題について手垢の付いたやうな聞き慣れた美辞麗句をちりばめ、やはり、グローバル化とか自由貿易といふ言葉が並べ立てられ演説を聞くと、やはり、今後の世界は、略奪資本主義の終焉に向かふことを決定づけたといふ印象を受けた。


略奪資本主義といふのは、近代資本主義が海賊資本家による略奪資本主義から始まつたと認識したカール・シュミットの言葉に由来するが、これまでの西洋人から見た歴史観によれば、西洋人に劣る野蛮人の住むフロンティアが世界に多くあつて、その野蛮人を奴隷として酷使したモノカルチャーによる植民地収奪などによつて利潤を上げて資本増殖を謀つてきた。しかし、これが行き詰まつてきた。

野蛮人が物事を知るやうになり、生活も豊かになつてきたことから、これまで通り、無償に近い収奪をしにくくなり、低賃金ではあるが略奪するのにコストが必要になつてきた。そして、植民地経営に代へて資源輸入へ、奴隷から有給労働者へと、略奪コストが増加しても、販売売価に上乗せして、植民地住民に売りつけて利潤を確保して経済成長を維持してきた。


ところが、植民地は、大東亜戦争の波及効果で激減し、植民地は独立したものの、これまでのモノカルチャーによる植民地政策の影響で、旧植民地は、原材料を輸出するだけで、先進国がこれまで蓄積してきた高度な生産技術がないために、自由貿易の言ふ名の経済植民地へと変化しただけで、格差構造はさらに強固となつて格差が一層乖離することになつた。これが、いはゆる南北問題である。


そして、これが世界的な問題となり、経済植民地を維持するコストが増大し、交易条件の悪化と賃金の増加によつて利潤が低下すると、今度は、多くの金融商品を開発して賭博経済を拡大させ、これによつて資本増殖を続けてきた。


しかし、いよいよすべてのことに限界が来た。


あらゆるフロンティアは消滅し、内需も外需も限界に達し、賭博もこれ以上はリスクがあつて拡大できず、資本の利潤が確保できない。そのため、資本利潤率に投影する長期金利は下落し続けてきた。


では、どうするか。それは、賃金を下げて利潤を確保することしか残されてゐない。

と言つても、雇用してゐる労働者の賃金カットは難しいので、非正規社員とか低所得の外国人労働者なる低賃金労働者を増やして労働力を補充して人件費を抑制し、正規社員の採用数を減らして、総体としての人件費を抑制して利潤を確保し続けるのである。


「狡兎死して走狗烹らる」といふ言葉があるが、これまで企業の利潤率の維持するために働いてきた労働者を、今度は食ひ物にして利潤確保のために収奪する。これが現在の資本主義の姿であり、世の中の資本家は、博打打ちと阿漕な事業者が多くなつてきた。


これがグローバル化と自由貿易の成れの果ての現象なのである。これによつて利益を得るのは、巨大資本であつて、これが「巨大な格差」(スティグリッツ)を拡大させる元凶となる。

そして、まさに、超富裕層(サミット)の利益に奉仕するエージェントの政府の集まりがG7サミットなのである。


平成13年7月に、同じくイタリアで開催された主要国首脳会議(ジェノバ・サミット)に、世界各地から集まつた数十万人の反グローバル化を唱へるデモ隊が終結し、そのうちの先鋭的な団体が警官隊と衝突し、サミット反対運動では、世界で初めての死者まで出る事態となり、そのために、その後のサミット開催においては、開催国において恒常的に異例の警備措置がとられるほどの影響を及ぼした。


今回も反対運動があつたはずであるが、過剰警備のために完璧に鎮圧されたはずである。しかし、このことを報道するメディアは一つもなかつた。


弾圧すればするほど、地下マグマは巨大な破壊力を蓄へることになり、いつか地殻変動が起こる。世界では、6秒に1人の子どもが栄養失調と貧困などで死亡してゐるが、地球の総人口72億人の下位半分の36億人の保有する資産と、たつた62人の超富裕層の保有する資産とが同じであるとする、こんな格差は、「巨大な格差」といふよりも、「犯罪的格差」である。


ノーブレス・オブリージといふのは、富裕層が下層大衆への「施し」の意味であつたが、そんなことでは焼け石に水である。こんな犯罪的格差を是正するには、優越感に浸る施しではなく、「贖罪寄付」が必要となる。しかも、それは、生活が普通に維持できる程度の財産を除いた全ての財産(余財)を供出することである。巨万の富を世界人民に「返還」する「財閥解体」であり、「余財奉還」である。


これ以上の格差と混乱を起こさないためにも、その前に、連続大量殺人者に等しい超富裕層は、略奪資本主義とレント・シーキング(rent-seeking)の合わせ技によつて、不当に蓄財したものを世界人民のために吐き出して、真の心の安らぎ得る権利と義務がある。


もし、それができないのであれば、国際血盟団による膺懲を受け、これを契機として、世界の全人民が覚醒する以外に方法がないのである。


南出喜久治(平成29年6月15日記す)


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