自立再生政策提言

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連載:千座の置き戸(ちくらのおきど)【続・祭祀の道】編

第百二十八回 自存自衛の道 4/6

ひのやまの はいのおほひし あれとちに かてをみづから つくるさきもり
(火の山の灰の覆ひし荒れ土地に糧を自ら作る防人(ラバウル要塞))


【真の世界戦略】


魑魅魍魎の国際社会にあつて、いまや自由貿易といふ幻想と欺瞞によつて世界平和を実現することは不可能となつた。


しかも、最低限度の公正な貿易ルールすら守らない中共などの独裁国家の存在は、国際紛争の主原因となりつつある。

特に、中共は、民主制に移行することを期待して例外的にWTOの参加を認められたにもかかはらず、民主制への移行どころか、さらに独裁制を強めるといふ退行現象が起きてゐる。まさに、国家資本主義、株式会社中共の出現である。


それゆゑ、真の国際戦略としては、中共の共産党独裁政権を打倒することを鮮明にしなければならないのである。火器による戦争ではなく、中共をWTOから除名して経済的に隔離することにより、自由主義諸国陣営は、一丸となつて、共産党の崩壊と民主制の導入のための経済戦争の布告をしなければならない。

特に、ジンゴイズムをひた走る中共の共産独裁体制は、世界においてその勢力範囲を拡張し続ける膨張政策を展開してゐるので、これを阻止しなければ世界全体が混乱し続けて紛争が常態化し、最悪の事態を引き起こす可能性がある。


Power tends to corrupt, and absolute power corrupts absolutely(「権力は腐敗する、絶対的権力は徹底的に腐敗する」)といふのは、ジョン・アクトンの言葉であるが、これは、絶対的権力が「腐敗」することまでは言へても、それが「崩壊」することには直結しない。


中共も、北朝鮮も、これに類する独裁国家は、いまや腐敗の極みにあるが、科学技術を悪用して、情報統制を強化し、徹底した監視と弾圧によつて独裁秩序を維持してをり、その態様と程度は、ソ連のスターリン時代とは比べものにならないほど悪質鞏固であるから、容易には崩壊しないのである。


崩壊させるためには、ソ連や東欧諸国のやうに、独裁政権の欺瞞と悪事を暴くために、独裁で抑圧された全人民に知らしめることから始めなければならない。いはば情報戦争を仕掛けることである。


民主化を推し進めるとしても、民主制といふのは、常に愚民政治に陥る宿命があるが、それでも表現の自由が保障されてゐる限り社会は再生しうる。民主制は、露骨な独裁制を抑制できる効果があるからである。世界の国が民主化すれば、資源等の再配分についての国際的合意ができる可能性が生まれ、国際紛争を極小化しうる期待ができる。


中共では、虚偽と粉飾による情報統制と徹底した弾圧を行ひ、恐怖の雨を降らすことによつて人民に萎縮効果が生まれ、それすら受け入れれば生きてゆけるとの中間層の心理を利用する巧妙な統治方法が完成してゐるために、美味い物を貪ることに満足し、精神活動の不自由さ、息苦しさを忘れて生きる豚の群れの富裕層と中間層は、天安門事件やチベット、ウイグルなどに対する虐殺について、見ざる言はざる聞かざるとなつてしまつた。この猿と豚の群れが我が国その他の国のインバウンドの主流となつてゐるのである。

この猿と豚とが増えれば増えるほど、中共の民主化はほど遠くなる。


【方向貿易理論】


さうであれば、中共の民主化は、すぐには訪れないので、我が国としては、このことに過度の期待はせず、別個独自に自存自衛の道を進まうとする必要があるが、それには一体どうすればよいのか。


我が国では、敗者なのに負けを自覚せず、占領政策を是認して、あたかも自主的、主体的に変革を行つたとする倒錯の中で、ミルグラム実験やスタンフォード監獄実験で示された結果のやうに、GHQの指示に従つて占領政策に与することが我が国の将来を切り開くとして、これに積極的に加担し、いまもこれを押し進めてゐるストックホルム症候群の患者たちが、占領憲法を憲法だと信じ込んで政権を担当してゐる。

このやうな、むくつけき狂信的な俗物群に支配されてゐる政治や言論空間を自覚すれば、中共や北朝鮮のことを嗤ふことはできない。


そして、戦前においても不充分だつた祭祀の道がさらに遠退き、近代化(均代化)を推進することによつて日本人の伝統的な精神的価値を否定してしまつた。これを一挙に是正することは不可能ではあるが、我が国の再生のために有効な一歩を見つけて踏み出すことができる。


それは、結論を言へば、いまこそ、自立再生社会の建設を目指すことにある。これについては、『國體護持総論』で詳しく述べてゐるが、現下における経済と安全保障の一体性の見地からすると、ここで述べた「方向貿易論」といふのは必須の基本政策となる。


この「方向貿易論」といふのは、「将来において貿易をなくす目的のために、その手段として貿易を継続する。」といふ貿易論であり、この方向について世界的な合意がされるべきであつて、少なくとも我が国がそのことを表明して実践することにある。


本を正せば、グローバル主義も、グローバル化が目的ではなく、手段であつたはずである。それは、世界の平和と繁榮を実現することを目的とし、その手段としての自由貿易によるグローバル化であつた。それゆゑ、自由貿易によるグローバル化の手段に勝るとも劣らない他の手段があれば、それぞれの功罪と長短を吟味して、より良いものを選択することに異議があるはずはない。


これは、「ゆるやかな鎖国主義」(大塚勝夫)といふ考へ方とも共通するが、フルセット型産業構造(食料、原材料以外の自給自足体制)といふ考へ方は、我が国においては、『日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定』によるMSA(Mutual Security Act)体制から脱却するための過渡的なものと限定すれば暫定的には認めてもよいだらう。


そして、方向貿易理論に基づいて、各国は、自給率向上のための年次数値目標を立てて具体的に貿易量を減少させるための様々な政策を打ち出して実施することになる。さうすると、貿易依存の産業は徐々に衰退する反面、自給自足へ向かふ方向の産業が活発となり、産業構造が自給自足体制へと次第に転換して行く方向性が決定する。決して、これは耐乏生活を強いる方向ではない。むしろ、産業構造の転換による新たな社会資本の増加や雇用が創出されるなど、経済は発展し成熟して安定する。無限大への経済成長ではなく、無限小への経済発展である。


そして、自由貿易が徐々に減速して行くと、次第に自給率が向上して行く。この進行速度は、基幹物資ごとの性質と事情もあつて一律ではないとしても、自給自足が実現できる地域的、構造的範囲が次第に拡大して行く。なぜならば、これまで世界の各地域において、自給自足の生活をしてきた人類の過去の記憶が本能的に甦るからである。それは、あたかも既視感(デジャビュ)の如く、本能に導かれて様々な方策を編み出しながら歩み始める。そして、次第に各国や各地域の一部に、独立した閉鎖系が生まれ、それが他の国と地域に伝搬していくのである。これは、一個の母細胞が徐々にいくつかの細胞に分裂して増殖して行く姿にも似てゐる。


【独自電源の確保】


では、我が国が、方向貿易論によつて自給率を漸増させて行くためには、資源等のすべてについて考へる前に、生活と産業の基盤となる電力の自給率を高めるためにはどうすればよいかを検討する必要があり、ベース電源となりうる自給自足電源として考へられるものについて検討しなければならない。


まづ、水力発電であるが、水力で発電機を動かし電力を生む方式には、ダム式、水路式、揚水式などがあり、個人が小さな水力発電装置を自作して設置することができることにも利点がある。

しかし、これは、内水利用によるものであるから、設置場所にも限界があり、我が国の電力消費量の大部分を賄ふことはできず、また、水量の減少や浚渫の必要性などから、維持費用の増大が懸念されるものである。


また、これ以外に、電力供給源として注目されてゐるものに、地熱発電がある。

我が国は、火山国であるため地熱や熱源となる温泉が豊富であり、その地熱を利用して発電する技術である。さらに、バイナリーシステムの導入を検討すれば、さらに有用性は広がる筈である。


【パラダイム・シフト】


そして、これ以外に、いま最も期待されるのが、黒潮発電である。これは、特に、黒潮を活用する発電であり、我が国の周辺海域にある親潮や対馬海流なども活用できるのである。この技術については、次回で詳しく説明するが、自存自衛の道を歩むためには、最低限度、独自の電源を確保することにあり、これなくしては、対米隷属から脱出し、対中隷属へと堕落することなく、自立再生社会を実現することはできないのである。


黒潮(Kurosio Current)は、地球の自転によつて発生する海流の一つであり、流体の断面積と流体の速度(流速)との積で表される体積流量も、その流速も4㎞/h~7㎞/h以上といふ世界最大のものである。

黒潮が大蛇行をすることはあるが、紀伊半島50㎞沖合以南では約100㎞程度の幅で常に東に流れるのは、日本列島に副つて深い海溝が走り、その東方には最深部が8000mを超える世界最大級の日本海溝があるといふ海底地形のためである。


また、海流の流速は、地球の自転のトルク(回転力モーメント)に関係するので、海面近くでは早く、深海では遅くなる。紀伊半島沖の水深は2000m以上であり、水深200mまでの比較的浅い深度において流速が最も大きい。

黒潮海流は、紀伊半島沖合付近の海底地形に大きな変化がなく、しかも、地球が自転を止めない限り永久に存続するものである。


紀伊半島沖の領海及び接続水域内を流れる世界最大の潮流である黒潮海流の潮流エネルギーを利用した黒潮海流発電は、地の利を生かした我が国の天恵と言ふべきものであり、地震、津波、台風、火災等による天変地異の被害を受けることが少なく、太陽光や風力などを利用した発電に伴ふ電力供給の不安定変動のない完全に安定継続した自然再生エネルギーである。


黒潮海流発電は、国内の電力総需要量を供給できる能力があり、しかも、動力コストが不要であるため、国内の基幹産業を始めとするすべての産業や国民生活の全事象における活動に低コストの電力を供給し、国民経済生活を豊かにして我が国の国際競争力を高めることとなり、日本産業構造のパラダイム・シフトを実現することになるのである。

南出喜久治(令和元年8月1日記す)


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