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連載:千座の置き戸(ちくらのおきど)【続・祭祀の道】編

第百二十九回 自存自衛の道 5/6

ひのやまの はいのおほひし あれとちに かてをみづから つくるさきもり
(火の山の灰の覆ひし荒れ土地に糧を自ら作る防人(ラバウル要塞))


【黒潮海流発電の技術】


NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)及び株式会社IHI(旧・石川島播磨重工業株式会社)などと提携する東京大学大学院の高木健教授の発明にかかる海流発電装置は、海底近くに発電機を設置する工法によるものであるため、黒潮海流が流れる紀伊半島沖100㎞の海域では深海となり使用できない。深海ではトルクや流速は遅くなり、高水圧に堪へうる装置が必要となるので、コストパフォーマンスが悪く実現不可能である。現に、和歌山県沖での実証実験は失敗に終はつてゐる。


これに対し、民間人の取得した浮体係留システム工法による黒潮海流発電の一連の特許は、発電用浮体(船体)を海面から水深200mまでに設置させ、これを海底約2000mにアンカーを打ち込んで固定し、係留索により係留するといふ技術なので、黒潮海流発電には最適である。


この技術は、カーボン製(炭素繊維)スクリュー付き水平型発電タービンを発電用浮体(船体)の船底の前後左右に4基設置した鉄製浮体を水深200mまでに設置し、これを海底約2000mにアンカーを打ち込んで固定し、係留索により係留するといふ技術であり、この船体を横10台、縦10台、計100台繋ぎ合わせたものを1システムとして、これを連結して設置するものである。


スクリューの直径は30mで、これを4基設置すると、1台は、横80m、縦100mとなる。この浮体(船体)を鋼鉄の約100倍の強度(50~70Gpa)のカーボンナノチューブで連結する糊代を10mとすると、1システム(100台)の規模は、約900m×1100m(ほぼ京都御苑の面積)である。

発電タービン1基当りの発電能力を3000kw/h(最新の風力発電タービン能力)と仮定すると、これを4基備へた1台の浮体(船体)で1万2000kw/h、1システム(浮体100台)で120万kw/hである。これは、最新の原子力発電装置1基分の発電能力100万kw/hを超えるものである。これは、1システムだけで、日本全国での年間総発電量である約100万Gw/年の100分の1を担ふ計算になる。

アンカーは、和歌山県新宮市を母港とする大深度掘削船「地球号」を使用し、黒潮海流の中心領域である和歌山県紀伊半島沖合約100㎞の水深2000m前後の海底に打ち込んで溶剤等で固定する。

係留索は、その内部に送電線、通信線を内蔵するが、係留索自体の比重を海水と同等の1.03(浮力0)とするため、カーボンナノチューブも同じ比重にすれば、海面下約20m~30mの海中に係留する浮体(船体)に負荷を与へないことになる。


【検討事項】


では、これを実現するためには、予想される懸念について検討しなければならない。


1 天変地変による災害等の影響を受けないか。

近く発生するとされる南海トラフ地震と、これによつて誘発される富士山の噴火などの最悪の連鎖的災害が起これば、南海、東南海など日本列島の太平洋側の沿岸及び内陸の広い範囲に悉く壊滅的な被害を被ると予測される。


我が国における既存の発電方法はすべて内陸設置のものであり、エネルギー供給基地が内陸にある限り、地震、津波、台風などの自然災害や、火災、航空機墜落、爆発などの事故災害による影響は不可避である。

しかも、その災害復興のために必要な電力供給の基地が内陸にあれば共倒れとなつて、長期に亘つて復興不可能な事態に陥る危険もある。北海道において、平成30年9月に立て続けに起こつた台風被害と地震被害によつて道内全域が停電するなどの事態が発生したことは、今後も全国的規模で多発すると予測される異常気象による巨大台風と地震、津波などの複合的災害を想定せざるを得ないのである。


しかし、浮体係留システム工法の発電は海中設置のものであり、これらの災害による被害を殆ど受けない。火の気のない海中では、地震や津波、台風による影響は殆どなく、内陸災害時でも復興のための安定した電力供給が可能となる。


2 黒潮の大蛇行によつて設置場所を移動しなければならないのか。


黒潮は大蛇行することが知られている。

しかし、紀伊半島沖約50㎞に、幅約100㎞の規模で流れる黒潮は、大蛇行のときも西北西への長さ200~300㎞は蛇行しない。これは本州最南端へ迫り出す紀伊半島がそのすぐ南方の海溝に迫つてゐるといふ海底地形のためである。つまり、紀伊半島沖は黒潮が通過する定点とも言へるので、この海域に設置することに問題はない。

また、係留索の長さの調整等により、システム全体を水平方向及び垂直方向へと変動させることは技術的に可能である。


3 魚類や浮遊物等の衝突及び紛争などの事件、事故による破壊、損傷及び故障を防ぐことができるか。


日本の南岸に沿って北上する黒潮の透明度は30~40mで澄んでゐる。つまり、貧栄養のためプランクトンが少ない海流であり、食物連鎖の関係で、特にこの海流の中心部の流れの強い場所を遊泳する小型魚は少なく、これを追ひかける中型魚や大型魚も少ない。


また、浮遊物との衝突を回避するためには、システムの前面に防護柵等を設置すれば、浮遊物等を左右に誘導して衝突等を回避させる対応が可能である。


紀伊半島沖合約100㎞の海域では、船舶の航行には支障が出ない。さらに、局地紛争などによる他国からの魚雷攻撃等やゴミの大量投棄等による妨害工作に関しては、国家的な国防上の問題となるので、海上保安庁、海上自衛隊、航空自衛隊による国家的なエネルギー防衛措置に委ねられることになる。


ただし、原発に関しては、原発本体のみならず、冷却給水装置や送電設備などに対するゲリラ攻撃、洋上からの砲撃、空爆などによる多種多様な破壊が予測しうるため、これらすべてを防御することが不可能であることと対比すると、我が国の現在での海防能力等で、この海中発電の防衛は万全を期することができる。


4 50kHz(東日本)と60kHz(西日本)の各地域への供給をどのようにするか。


発電時点で分けるか、送電エリア向けに変電するかである。伊豆半島沖及び房総半島沖などの黒潮海域に50kHzエリア向けの発電装置を設置することもできるのである。


5 係留や深度等の調整はどのように行うのか。


発電装置に海面からの深度と流速を測定するセンサーを設置し、これによりバラストタンクの調整をして、流速と深度の最適状態を決定し、常時安定させる。

メンテナンス時は、バラストタンクの水を抜き、船体を海面に浮上させて作業を行ふので、メンテナンス作業は容易である。

係留索はカーボンナノチューブで作られてゐるので巻き取りはしない。ウインチも使用しない。送電用ケーブルは銅線を使用するので、この銅線をカーボンナノチューブ製係留索の内部に通して浮力をゼロとするので、これについてのメンテナンスは殆ど不要である。


6 スクリュー付きタービンの開発その他の技術開発に対応できるか。


最も発電効率がよい形状(抗力型、揚力型)、大きさ、素材などの技術革新に伴つて発電効率が高まる。素材の強度ないしは柔軟性が高まれば、障碍物(船舶、漁網、魚類、浮遊物など)に接触した場合の耐久性が高まる。

蓄電技術の驚異的な発達を予測すれば、発電した電気を海底ケーブルに内陸に送つて蓄電することが可能となる。


7 製造コスト、ランニングコストの見積もりはどうか。


原発は1基当り3兆円以上と見積もられたために、原発輸出は完全に頓挫したことと比較すると、この1システム(100台)当りの製造コストは多く見積もつても概算で1~2兆円(1基当り100億円~200億円)。1システムを最大限の概算で見積もつて2兆円規模とすると、50年間の定額法による減価償却として年400億円、年間メンテナンス経費400億円、その他の年間経費200億円とすれば、年間経費は最大で1000億円となる。これは、原発の維持コストとは比べものにならないほど少ない。

1システム当りの発電量は、原発1基分(100万kw/h)を超える120万kw/hであるから、年間105億1200万kwとなり、1kw/h当りの発電コストは多く見積もつても約10円となる。また、1システムにとどまらず多くのシステムを建設稼働させることによるスケールメリット(規模効果)により、さらに発電コストは少なくなる。


8 その他


自民党は、平成25年3月29日の総務会で、平成32年(2020年)4月1日に、電力会社から送配電部門を切り離す発送電分離と電気料金の全面自由化を実施するとの電力改革の政府方針案を了承したことから、この技術は資金提供者と提携すれば電力料金の大幅値下げによる経済貢献ができる。


自民党内には資源確保戦略推進議員連盟が存在し、メタン・ハイドレードを中心に検討されてゐるが、これはコスト問題の壁に阻まれてゐる。また、これ以外に、潮流発電についても検討されてゐるが、前述したNEDOとIHIなどが高木健教授と共同して取り組む海底付近設置工法しか俎上に上つてゐない。これらは、すべて様々な利権に踊らされた結果である。


我が国は、開国以来、資源がないといふ強迫観念に支配されてきたが、黒潮海流発電で生まれる電力を海底ケーブルで、尖閣諸島や沖ノ鳥島などに建設する海洋基地に送電し、これらの海底に埋蔵されてゐる石油、天然ガス、レアメタル、レアアースなどの海洋鉱物資源等を発掘開発すれば、国際競争力を増して、これまでの資源・エネルギーの輸入国から輸出国へと大転換できる可能性を秘めてゐるのである。さらに、蓄電技術等の進歩によつて、我が国は、エネルギー輸入国から、輸出国へと大転換を遂げて、確実にパラダイムシフトの主役に躍り出ることになるのである。


南出喜久治(令和元年8月15日記す)


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