國體護持總論
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通貨發行權の本質

このやうなことを前提とした上で、では、どのやうな根據によつて通貨發行權は、國家ないしは國家の指定する中央銀行が獨占することになつたのか、といふことについて考へてみたい。

そもそも、通貨發行權を國家が獨占するまでは、誰が理論的意味において通貨發行權を持つてゐたことになるのか。そして、それがどのやうな理由によつて國家又は第三者が取得することになつたのか。あるいは、國家が獨自の理由と根據によつて通貨發行權を始原的に取得したといふのか。

ところが、これらの疑問についても、經濟學のみならず全ての學問分野において理論的に議論されたことはなかつた。


思ふに、このやうな財(商品など)と媒介貨幣との關係は、形影相伴ふかの如く、物(財)に陽が當たれば(流通すれば)陰(貨幣)ができる様子と同じである。これが商品貨幣の場合は全く問題なかつた。商品貨幣は、價値實體のある商品自體の價値があつたことから物々交換の延長線上で説明ができたからである。

しかし、價値實體のない媒介貨幣を商品交換の媒介とする場合には、その關係の認識が外觀上は希薄になつてくるが、この關係が維持されない限り、商品經濟の根底が揺らいでしまふのである。

つまり、厳密に言へば、貨幣は、財(商品など)との關係で、財(商品など)の存在を原因として認められる有因の有價證券(有因證券)であり、無因證券である約束手形などとは異なる。いはば、貨物引換證や船荷證券と同様の有因的性質のものと言へる。つまり、個別の財の價値に個別的に對應する有因的爲替手形の性質に類似したものとして、貨幣を個別的に觀察すれば觀念的に認識しうる譯である。


では、その個別觀察による貨幣(個別的貨幣)の振出人(發行者)は誰か。それは、取引當事者だけの關係で言へば、個別的貨幣の發行者はその商品の所有權を取得する買主である。そして、賣主である元所有者は、その受取人として、買主が個別的貨幣に表象されてゐる價値相當の別の商品を將來おいて取得することを保證した個別的貨幣の交付を受ける。ところが、見も知らない買主が發行した個別的貨幣には信用がない。また、取引ごとに個別的貨幣が發行されることの煩雑さと取引障害もある。そこで、それを回避して貨幣經濟を推進させるために、國家は國民に向けて、統一的な均質の貨幣を發行して、その貨幣に表象された價値があることを保證することになる。

しかし、個別的な財に對應する個別的貨幣を取引毎に發行するのは現實的には不可能であるから、個別的對應から總額的對應をした貨幣(全體的貨幣)を發行することになる。それは、國内に存在する流通財の價値總額に對應する貨幣總量を一齊に發行することになる。その全體的貨幣の貨幣總量は個別的貨幣の總和に等しいのである。

このやうにして、國民は、商品と交換する際に必要な通貨を發行する權限を國家に委譲することになるのである。


國家に通貨發行權が委譲されることにより、貨幣は、法的な強制通用力を有する「通貨」(法貨)となる。通貨が商品價値を表象し化體するものであれば、それは單に法的な強制があればよいのではなく、財の實物價値と等價的な對應關係が維持されてゐるとする國民の信賴を得なければならない。

そして、その信賴の根底には、取引ごとの個別的貨幣が通貨として認識できる根據としての論理が存在しなければならない。それは、個別的貨幣が個別的通貨への轉化する消息を手形に擬へて説明できるといふことである。手形には、爲替手形や約束手形の二種があるが、それが登場してきた順序は、貨幣(法貨でないもの)と通貨の始まりから相當に遲い。登場した順序を時系列で並べれば、貨幣、通貨、爲替手形、約束手形の順である。ところが、この時系列とは異なり、貨幣のしくみに相當するのが約束手形のしくみであり、通貨のしくみに相當するのが爲替手形のしくみであることが解る。


爲替手形とは、發行者(振出人)が第三者(支払人)宛に一定の金額を受取人又はその指図人(被裏書人)に支払ふことを委託した有價證券である。これに對し、約束手形は、爲替手形の支払人が存在せず、振出人自らが支払することを約束をしたものである點に相違がある。


さうすると、前にも觸れたが、取引當事者間だけに限定した考察では、個別的貨幣は、約束手形と同樣に、買主が振出人(貨幣發行權者)であり賣主が受取人となる。ところが、ここに國家が介入してくるとなると、國家は爲替手形の引受人の地位に置かれて個別的通貨となる。約束手形から国家が引受人となる爲替手へと轉換するのである。そして、通貨であることから、振出人も受取人も無記名となり、國家(引受人)と受取人及びその承繼人である所持人だけの關係となる。このやうにして、個別的貨幣が個別的通貨になる。個別的通貨では、個別的な價値しか表象しないが、國家が個別的通貨を超えて、その總和である通貨總量を全體的に引受することによつて、個別的貨幣に對應する個別的通貨から全體に對應する全體的通貨となる。つまり、これによつて、通貨發行權を委譲された國家が發行する貨幣總量は、引受總量すなわち實物財(商品など)の價値總量と等價的に對應しなければならない制約が生まれることになるのである。

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