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いはゆる「保守論壇」に問ふ ‹其の十›
-極東問題の総合的解決に関する一考察-

一 沖縄問題


マスコミなどは、沖縄では米軍の基地の負担が大きいと言ふ。確かに、沖縄は全国土面積の0,6%に過ぎないのに、米軍基地の74%が沖縄に集中してゐるので、その数と面積からすると在日米軍基地は本土と比較して圧倒的に大きい。しかし、「負担」と言つても、確かに米兵による事件や事故が繰り返されるが、具体的な県民生活における負担は少ない。むしろ、借地料収入その他基地関連事業や米兵が消費する経済効果からすれば、「負担」ではなく「貢献」がある。しかし、その実態を見れば、借地料収入が入る数多くの大地主は、沖縄に住まずに東京などで生活をして、膨大な借地料収入は地元の沖縄での消費には向けられない。沖縄には、基地関連以外の産業が少ないないために、人材の県外流出は、他府県よりも著しい。これでは補助金付けにならざるを得ない。


在日米軍基地は、我が国全域において84か所ある。自衛隊基地と共用しうるものとしては、さらに50か所もある。そして、この中で最も重要な基地は横田である。ここには米軍司令部がある、また、横須賀には米海軍司令部がある。そして、戦闘行為が開始されそれを継続する場合に、最も必要な米軍の燃料貯蔵等の施設、すなはち、ロジスティックス(兵站)の基地は、勿論のことながら米国本土に最大規模のものがあるが、二番目に規模の大きい基地は横浜に、三番目の基地は佐世保にある。沖縄には、そんな重要な基地がない。


米軍の組織は、「二極構造」となつてゐる。米国本土と日本の二箇所に司令部機能を持つてをり、一極集中がもたらす危険を回避しながら、世界全域に睨みを利かせてゐる。その他の国にある米軍基地は、いはば「支店」や「出張所」であつて「本店」ではない。もし、米国の敵国が米軍を壊滅させやうとするのであれば、先端基地の沖縄はさることながら、軍司令部のある横田、海軍司令部のある横須賀、そして、兵站基地である横浜と佐世保を重点的に攻撃することになる。

その意味では、本土の方こそが危険なのである。司令部を崩壊させ兵站(公報支援)を断つことが必勝の方程式であり、これらを潰せば、沖縄や岩国などにあるオスプレイや戦闘機などは、頭をもぎ取られたのと同じになり役に立たない。また、司令と兵站を叩けば敵の前線部隊に動揺を与へ士気を低下させる心理的効果も大きいのである。

つまり、基地の重要性とは、数の多さや面積の広さで決まるのではなく、その機能の質によつて決まるといふことである。


その昔、戊辰戦争において、家老・河井継之助が率ゐた長岡藩は、アームストロング砲や当時の日本には3門しかなかつたガトリング砲と2000挺の洋式銃で新政府軍と激闘した。そして、一旦は政府軍に落とされた長岡城を奪還した成果を上げたのである。これは戊辰戦争において新政府軍が敗退した唯一の事例だつた。

つまり、それほどまでに長岡藩の戦闘能力は新政府軍に勝つてゐたが、最後には長岡藩は降伏した。その原因は、決して物理的な意味で戦闘能力が低下したためではない。それは、司令と兵站とが途絶え、士気が低下した結果であつた。


その原因は二つある。一つは、長岡城奪還の際に、河井は重傷を負つて、会津へ退却中に死亡したことにより、この最高で有能な指揮官を失つたこと。そして、二つ目は、新政府軍が海軍力を駆使して、長岡藩の戦略物資を供給してきた新潟を占拠し、長岡藩はその兵站が断たれてしまつたこと。この2点にあつた。


大東亜戦争において、援蒋ルートを封鎖する目的で仏印進駐を行つたのも、英米の兵站を断つためであつたし、これらの教訓からしても、戦争に勝利するために必要不可欠なものは、指揮命令系統(司令)とロジスティックス(兵站)の確保であり、そして、これを信頼した将兵の士気と戦闘能力の高さであつて、そのことは今も昔も変はらないのである。


普天間基地が危険であると言ふが、住居密集地にある福岡空港の方がもつと危険であるのに、このことは騒がれない。米軍基地が出来てから、その周辺に住宅ができたのであつて、周辺住民は先住性を主張し得ない。沖縄には殆ど産業がないので、基地が存在することによる経済効果を期待して人が集まつてきただけである。


どうしても辺野古への移設がダメだと言ふのであれば、普天間を固定化し、危険地域の住宅や民間施設などを土地収用法に基づいて立ち退きさせて、損害補填をさせるか、代替地を提供すればよい。辺野古については既に漁業権保証金の支払がなされてゐるが、それを元に戻してまで沖縄県民が抽象的な「環境保全」の方がなによりも大事だと言ふのであれば、辺野古を断念して、普天間周辺の危険地域の立ち退きを求めることになる。

辺野古の「環境保全」をとるか、普天間の「安全確保」をとるか、これらに利害関係のある沖縄県民は選択する必要がある。


そもそも、前回の『沖縄と憲法』でも述べたが、 沖縄県に、「日本国憲法」(占領憲法)が適用されるとする憲法上の根拠がない。今日5月15日は、沖縄が昭和47年に「本土復帰」した日であるとして、沖縄県民は勿論、国民の殆どが洗脳されてゐるが、これにも大きな疑問がある。サンフランシスコ講和条約は、トカラ列島、奄美諸島、小笠原諸島、沖縄列島、北方領土が分断されたままの日本本土だけの「分断国家」の本土政権と連合国との間で締結されたのであつて、しかも、沖縄を排除して本土政権だけで制定されたとする「日本国憲法」が、どうして「本土復帰」後の沖縄に自動的に当然の如く適用されるのかといふ素朴な疑問に誰も答へられてゐない。

西ドイツのボン基本法が、東ドイツには適用されず、統一ドイツの新たな憲法が制定されることになつた国際法上の常識が、本土と沖縄の関係には全く適用されないといふ不条理がここにある


ポツダム宣言の受諾と降伏文書の調印は、帝国憲法第13条の定める、宣戦から停戦、講和に至るまでの一連の戦争に関する外交大権に基づくもので、この権限は、占領憲法第9条第2項後段で否認されてゐる「交戦権」のことであり、アメリカ連邦憲法の戦争権限(War Power)と同じものであるから、交戦権が認められてゐない占領憲法では、講和条約以外の一般条約は締結できても講和条約を締結して独立することはできない。なぜならば、講和条約第1条「(a)日本国との各連合国との間の戦争状態は、・・・この条約が日本国と当該連合国と間に効力を生ずる日に終了する。」とあるので、「戦争状態」を終了させるのは、まさに交戦権の行使だからである。従つて、本土政権の分断国家が独立できたのは、帝国憲法第13条によるもので、今のこの時点でも帝国憲法は現存してゐるのである。


さうであれば、「本土復帰」ではなく、本土政権と沖縄政権の分断国家同士の国家併合手続と帝国憲法改正手続が改めてなされなければならないのに、これが未だ実現してゐないことが「沖縄問題」の根底にあることを自覚しなければならない。



二 韓国問題


現在、コリアン・ファティーグ(korean fatigue 韓国疲労感)と呼ばれる状況に陥つてゐるが、病膏肓に入つた韓国の反日の原因は一体どこにあるのか。

それは、韓国の憲法前文と昭和23年9月に制定された「反民族行為処罰法」といふ建国以来から続く自縄自縛の桎梏が存在するからである。


韓国の独立は、昭和23年8月13日であるのに、これを同月15日(光復節)であると偽り、あたかも、昭和20年8月15日に独立したかの如く喧伝する。

しかも、筋金入りの反日活動家である李承晩によつて昭和23年7月17日に制定された大韓民国憲法の前文には、「己未三一運動で大韓民国を建立し」とある。「己未三一運動」とは、大正8年の三・一運動のことである。ここにも虚偽がある。三・一運動による独立宣言に基づいて事後に成立したとされる大韓民国臨時政府は、上海での亡命政権もどきものであつて、韓半島での国家統治の実体やその影響力は全くなかつた。


そして、李承晩は、独立後において、親日者をすべて売国者とする「反民族行為処罰法」を制定し、我が国による統治に協力した者を遡及的に刑事処罰し、その末裔にも連座制を適用して財産を没収する内容の法律を制定した上に、昭和27年1月18日に、いはゆる李承晩ラインを強行して竹島を侵略した。罪刑法定主義や国際法などを完全に無視した世界的な無法者であつた。


しかし、昭和29年11月29日、あの悪名高き「四捨五入改憲」など、私利私欲の露骨な政治を敢行したことから、昭和35年4月19日、韓国民の大規模な辞任要求デモによつて李承晩は辞任し、アメリカへ亡命した。


そして、その翌年の昭和36年5月16日に朴正煕による革命が起る。その下で、「己未三一運動で大韓民国を建立し」といふ憲法前文の虚偽表現は削除されたが、全斗煥時代の昭和55年10月の憲法改正で、その前文に再び「三・一運動で建立された大韓民国臨時政府の法統と不義に抵抗した四・一九民主理念を承継し」との文言が復活する。李承晩なき李承晩路線を復活させたのである。


それまでは、「反民族行為処罰法」は停止状態となつてゐたが、平成16年に、「日帝強占下反民族行為真相究明に関する特別法」が制定され、本格的な親日狩りが始まつて今日に至つてゐる。

この虚偽の憲法前文が存在する限り、韓国は竹島問題、慰安婦問題、靖国問題などが根拠のない強引な主張であると判つたとしても決して諦めない。諦めれば憲法との乖離が生じて建国の理念を否定することになるからである。



三 極東問題の総合的解決


ところで、この韓国問題と、沖縄問題、さらには沖縄全部を略奪しようとする中共の尖閣問題とは、すべて地下水脈で繋がつてゐる。

沖縄の独立運動と韓国の三・一運動との対日独立志向といふ類似性があり、また、この韓国の三・一運動と中共の言ふ抗日戦争とは、反日抗争による建国理念といふ虚構性において類似性がある。そのために、慰安婦問題、靖国問題、領土問題、基地問題などで、沖縄、韓国、中共はブリッジ共闘をしてゐるのである。これらは、国内問題と国際問題といふ二分法ではなく、これらを極東問題として総合的に捉へる時期に来てゐる。


これらのことについては、多くの政治家や評論家などが、詳しく問題点を指摘してゐるとほりではあるが、誰一人具体的な解決策を示せないのである。批判のための批判である。それでは全く意味がなく、単なる売文、売名の活動に過ぎない。


これらの問題は、すべてが一塊の地下水脈で繋がつてゐるからこそ、ひとつの方法ですべて解決できるはずである。

それは、我が国におけるエネルギー政策を大転換すること以外にない。これまでは、石油、天然ガス、原子力、太陽光、地熱、風力などのエネルギーのどれにどれだけ依存するかといふ議論しかなく、とりわけ、国論を二分する原発問題については、大局観からすれば、対米従属を強化するか否かの議論でしかない。いづれにしても、エネルギーの自給といふ観点が欠落してゐることだけは確かである。


我が国は、戦前において、石油をアメリカに依存してゐた。ところが、敗戦後は、アメリカは石油の輸出国から輸入国へと転換した。その理由は、自国の石油を採掘して枯渇させることは国防上の大問題を生むからである。自国の石油を温存すれば、世界の石油が枯渇しても、アメリカだけがエネルギー自給ができると判断したからである。そして、アメリカは、石油の輸出国から輸入国に転換するとともに、サウジアラビアなどに対する石油利権を支配し、世界におけるエネルギー政策を間接的に牛耳ることになつた。ところが、アメリカを含め全世界を支配するロックフェラー財閥の内部抗争によつて、石油か原子力かのエネルギー路線が対立し、原子力推進勢力が優勢となり、我が国においても正力松太郎(読売新聞の元社主)といふアメリカCIAのスパイによつて、原子力の「平和利用」といふ名の下で原発が導入された。


我が国は中東などに石油依存をしてゐるが、それを間接的に支配するのがアメリカである。いはば、我が国に対しても「間接支配」を持続してゐる。しかし、原発依存へと転換させれば、日米原子力協定によつてアメリカの我が国に対する「直接支配」の傾向が強まる。これによつて戦前と同じやうに、アメリカの我が国に対するエネルギー分野での直接支配を甦らせたのであつた。


このアメリカ戦略に抵抗して、アメリカ支配のサウジアラビア以外からも均等に石油を輸入してアメリカ一極支配から脱却する我が国の独自のエネルギー政策を展開しようとしたのが田中角栄であつたが、アメリカの謀略により失脚した。

また、尖閣諸島の海底に、膨大な地下資源が存在することが判明すると、中共がこれに食指を伸ばしたが、私の占領憲法無効論に共鳴してくれた中川昭一氏が経済産業大臣であつた平成17年に、我が国独自で尖閣の試掘調査をしようと動き出したことがアメリカの逆鱗に触れ、これもまた謀略により失脚し、その後は落選して死に追ひ込まれた。


もし、尖閣の海底資源は、我が国の産業経済において数百年は確保できる石油、天然ガス、レアメタルなどの埋蔵量があり、これによつて、我が国は、これまでのエネルギー輸入国から輸出国へと劇的に転換できる。これは、各国がエネルギー源の争奪紛争が回避され、各国がエネルギー自給できる世界が実現することになる、水の改質・浄化の技術開発、人工光合成の開発、水素エネルギー活用による水素社会の実現、バイオコークスの開発と産業実用化、その他我が国における多くの優良技術の開発と実用化までには、まだ相当の研究と時間が必要とされることから、それまでは、やはり石油、天然ガスなどが長期に亘つて世界的なエネルギー源の首座を締めることは間違ひない。


さうであれば、一日も早く尖閣の海底資源の開発と実用化を先行させる必要がある。このことによつて、世界の戦後体制は完全に払拭できるのである。しかし、これをアメリカなどが黙つて見過ごすはずがない。だからこそ、アメリカは、戦後体制を根本的に崩壊させる種火を消したかつたのである。


これからは、小村寿太郎の反対によつて挫折したハリマン構想における歴史の教訓に習ひ、我が国だけが経済的利益を独占することが国際社会での軋轢を生むことを考慮すれば、尖閣の開発は、台湾、フィリピン、ベトナム、インドネシア、マレーシア、タイ、ミャンマーなどの親日諸国との米中包囲網の海洋国家連合を結成して、我が国の先端技術による主導で尖閣開発による資源活用を行ひ、これを「殖産興業」政策の基軸に据ゑて世界経済を牽引することである。

この海洋国家連合には、中共も勿論、米ロも参加させないことが理想ではあるが、今後の対米関係、対ロ関係、対中関係の変化を見据ゑた上で、この海洋国家連合に米ロをともに参加させ、両国間の抑制と均衡を利用して対中包囲網を強化する方法もありうる。


中東に石油、天然ガスを依存する限り、ホルムズ海峡とマラッカ海峡などの無害通行権の確保がエネルギー確保のための生命線になるが、尖閣の資源によつてエネルギー自給率が大きくなればなるほど、はるか遠くの海峡を防衛しなければならない必要性は低下して、防衛上の大きな利点となる。


そして、このことは、韓国も中共も同じであるから、韓国もこれまでの反日路線を放棄し、竹島を我が国に返還するのであれば、有償にて尖閣資源の共同採掘権を与へ、韓国にも、安定したエネルギー政策の自立ができるやうにしてやることである。

この方向により中共と韓国とを分断させ、もし、中共もまた尖閣開発に参画したいといふのであれば、領土問題と歴史問題に終止符を打つことなどを条件にこれに参加することを許してやればよい。


極東での領土問題や歴史問題などは、単に平面的で原理主義的な論争を繰り返すだけでは、いつまでたつても解決できない。もつと、さらに高い次元の視座と戦略がなければ、根本問題を総合的に解決できるものではないのである。それは、エネルギーの自給を実現し、輸出国へと大転換するによつて解決できる。これによつて、対米関係を、従属から協調へ、そして真の対米独立へと発展できるのであり、これこそが我が国の安全保障政策の要諦となる現実的で唯一の道なのである。


平成27年5月15日記す 憲法学会会員、弁護士 南出喜久治

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